福岡地方裁判所 平成5年(行ウ)5号 判決
原告
福永照章
同
福永義昭
同
福永善光
同
福永千鶴子
被告
福岡県知事
奥田八二
右指定代理人
増田保夫
工藤昭吉
新徳継秋
津村建次
信近栄
緒方民恵
岩崎高行
事実及び理由
第二 事案の概要と争点
一 事案の概要
原告らは、遠賀川右岸である福岡県嘉穂郡稲築町白門地区の土地について所有権を有し、所有権を有すると主張している者らである。
訴外起業者建設大臣は同地区内で施行中の河川改修工事につき事業認定を得て工事を進めていたが、平成三年八月二六日同大臣から収用、明渡裁決の申立てがされ、平成四年六月一二日原告らに対し、収用、明渡裁決がなされ、明渡期限を同年八月三一日と指定されたが、原告らが右期限までに土地の引渡し及び物件の移転義務を履行しなかったため、被告行政庁が代執行処分を行い、原告らに行政代執行に用した費用の納付命令処分をしたところ、原告らは、右事業認定が違法であり無効であるから、右事業認定に基づく各処分により発生した義務も無効であるとして、また行政代執行自体も代替的作為義務に該当せず執行不能であるのに原告らから土地、建物、植木等を奪う目的のみで実施されたものであり、違法であるとして、同納付命令処分の取消しを求めた事案である。
二 当事者の主張〔略〕
三 争点
本件代執行、納付命令に瑕疵があるか否か。
第三 争点に対する判断
一 〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。
1 起業者建設大臣は、平成二年一〇月一日付け遠賀川水系工事実施基本計画に基づく白門地区の改修工事に係る事業認定(以下「本件事業認定」という。)の申請を建設大臣に行い、同大臣は、事業が土地収用法二〇条各号の用件を満たしていることを認め、本件事業認定を行い、同年一一月二八日付け建設省告示第一九一三号をもってその告示を行った。
2 起業者は、本件事業認定の告示後、収用する土地に関する土地調書及び物件調書の作成を行い、福岡県収用委員会(以下「委員会」という。)に対し、平成三年八月二六日、土地収用法三九条一項及び四七条の三に基づき収用及び明渡裁決の申請をした。
3 委員会は、平成四年六月一二日付け「4福収裁第2号、同第3号及び同4号」をもって、権利取得の時期を同年七月一三日、明渡しの期限を同年八月三一日とする裁決をした。
4 起業者は、平成四年七月一日、不明裁決または受領拒否を理由に損失補償金を福岡法務局飯塚支部に供託した。
5 起業者は、原告らが土地の引渡し及び物件の移転義務を履行しないため、平成四年九月一六日、被告知事に対し、土地収用法一〇二条の二第二項に基づき代執行の請求をした。
6 被告知事は、平成四年一二月一〇日、原告らが物件移転等の義務を履行していないことを確認のうえ、行政代執行法三条所定の戒告を行い、平成五年一月一一日、代執行令書を原告らに送付した。
7 被告知事は、右代執行令書送付後も、原告らが物件等の移転義務を履行しないため、平成五年一月二〇日、代執行を実施した。
8 被告知事は、平成五年三月三日、行政代執行に要した費用の徴収について(通知)と題する書面で、訴外辻田由喜年及び原告らに対し行政代執行法五条、六条の規定に基づき四六万九九七四円を納入期限平成五年三月二二日、原告らに対し同法五条、六条の規定に基づき四五万一〇五一万円を納入期限を同日、福岡県及び原告らに対し同法五条、六条の規定に基づき四万一三四三円を納入期限平成五年三月二二日として、各通知をした。
二 そこで、右一の事実をもとに以下判断する。
1 原告らは、被告知事が実力で移転義務者である原告らの収用土地の占有を排除したことはいわゆる非代替的行為について代執行を行った違法があると主張する。
しかしながら、本件代執行により、原告らに対し課せられた義務は、「土地若しくは物件を引き渡す義務」であるところ、右義務は、引渡義務者が身体的実力で引渡しを拒否するため身体に対する直接強制を必要とする場合を除き、義務者が引渡の対象である土地若しくは物件を家財道具等の存置により占有している場合は、存置された物件を搬出することにより占有を解き、引渡しの対象である土地物件の現実の支配を起業者に取得させることで足りるのであって、本件代執行においては、被告は、引渡対象土地上の物件(建物、工作物、立木等)を当該土地上から除去、搬出した上、当該土地を起業者に対して引き渡したものと推認され、原告らが身体的実力をもって引渡しを拒否した事実も認められないのであるから、右の原告らの主張は理由がない。
2 次に、原告らは、物件移転の代執行方法につき、「解体移転工法」が採用されているのに、被告はこれに従わず、解体された材木等の所有権は原告らに帰属するのにこれを廃棄したことは違法であると主張する。
しかしながら、土地明渡しに関する損失補償として認定されている額は、起業者が見積、提示した金額をもって相当額と認定しており、右金額は、工作物のうち移転可能なものについては取壊し、運搬、据付け等移転に要する純工事費とし、移転不可能なものについては新設の純工事費に諸経費及び消費税を加えた合計額を算出の基準としているところ、弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば、本件移転の対象である建物は、農業用資材等の保管のための木造建物であるところ、建築後相当な期間を経過し、著しく老朽化していること等から、移転不可能と判断され、各建物の除去及び廃材処分がされたことが認められるのであり、また右処分に伴う原告らに対する補償はなされ、さらに右補償に対する不服は、土地収用法一三三条による訴えで争わなければならないとされているのであるから、本件代執行に原告ら主張のような違法はないというべきである。
3 原告らは、立木の伐採権を取得せずに伐採したことは違法であるとするが、本件代執行の前提となる裁決書においては、立木の移転も含まれ、戒告書においても立木が含まれていることは明らかであるから、原告らの主張は理由がない。
4 原告らは、右のほか事業認定の違法、裁決の違法等を理由とするが、原告らは、右違法等を理由に事業認定処分取消、収用裁決取消等の訴えを提起し、当庁等に係属して審理されていることは、当裁判所に顕著な事実であるから、これらを理由とすることは認めることができない。
三 よって、原告らの各請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 牧弘二 裁判官 高橋譲 尾崎智子)